# 14.(2011年)電子図書館構想と日本の学術デジタルコミュニケーションの現状(e-Japanologyの構築に向けて) 東京外国語大学国際日本研究センター 日本語・日本学研究 Vol1 (2011) 国立国会図書館 総務部 情報システム課長 中山 正樹 ## 目次 ```table-of-contents title: minLevel: 0 maxLevel: 0 includeLinks: true ``` ## 1. はじめに 「電子図書館構想と日本の学術デジタルコミュニケーションの現状」と題して、当館の電子図書館のあゆみと、学術関係を含めた知識インフラの構築と提供に向けた状況を報告する。 まずはNDLの役割について、納本制度の下で国内の刊行物を網羅的に収集する当館が、国民に期待されていることは、印刷物=「物」としてではなく、「情報」として、網羅的に収集し、時代を超えて保存し、提供していくことではないか。当館の使命は、利用者が必要とする情報を確実に提供することであって、当館が保有している情報だけを提供すればいいというものではないと考える。 当館が保有している情報は利用しやすく、また、保有していない情報へは、所在場所へ確実に案内することが求められている。このような使命を果たすために、様々な施策を講じている。 ## 2. 電子図書館構想 当館は、1994年ころから電子図書館構築に向けた活動を行ってきている。1995年にはパイロット電子図書館プロジェクトでの実証実験を実施した。2002年、電子図書館サービスを中心的な機能に置く関西館が開館し、本格的な電子図書館事業を開始し、以降、「近代デジタルライブラリー」の公開、インターネット資源の選択的収集事業(WARP)、データベースナビゲーション事業(Dnavi)、各種の電子展示会の開催など各種の新規サービスを公開・提供し、全国の各種デジタル情報資源を一元的に検索し、ナビゲーションを可能とするポータルシステム(PORTA)に着手するなど、日本全国のデジタル資源の連携を視野に入れたサービスを始めた。 現在は、さらに飛躍する時期であると考える。その方向性として、国内においては館種を問わない全国の図書館との連携の強化と、図書館に限らず広く博物館や文書館などのデジタルの文化・歴史遺産をもつ機関との連携の強化が考えられる。また、海外に対しても、東アジアの日中韓3カ国の連携や、世界各国とのグローバルな協力の推進も視野に収める。また、デジタル化対象コンテンツについては、これまで主として資料の画像イメージを作成し蓄積してきたが、画像データベースは継続して強化していくとともに、これまで不十分であったテキスト化した資料のデータベース化も、重要な課題となる。さらに、音楽・映像データ等、文書記録のデジタル化に留まらない別のカテゴリーの資料のデジタル化も、視野に入ってくるものと考えられる。 ### 2.1. 当館蔵書のデジタル化 蔵書をデジタル化してインターネットで提供できる資料を増やすために努力してきたが、2009年以降、新たな枠組みとして、利用による資料損傷を避けるために保存を目的とするデジタル化を開始した。なお、2010年1月から施行された新著作権法では、当館が資料保存の目的でデジタル化することを、法律上明確にするように法改正が行われた。また、2009年に国の経済対策の一環として127億円の補正予算が計上され、また2010年にも10億円が計上された。これにより、2011年3月末の想定で、当館所蔵資料915万冊のうち、1/4にあたる230万冊がデジタル化される。 ### 2.2. 学位論文のデジタル化 学位論文電子化の諸問題に関するワーキンググループ中間報告(2008年3月)に基づいて、国公私立大学図書館協力委員会との協議により、学位授与日が2001年3月31日以前の学位論文を、当館が遡及してデジタル化し、デジタル化する学位論文は、著作権処理を行った上でインターネット公開することが確認された。 ## 3. 知識インフラの構築と提供に向けて 日本の学術デジタルコミュニケーションの現状については、学術情報を含めた知識インフラとして、その構築に向けた状況を報告する。 ### 3.1. 知識インフラの必要性 我が国の第4期科学技術基本計画に係る「科学技術基本政策策定の基本方針」(2010年7月16日総合科学技術会議報告)でも、文献等研究情報のデジタル化、オープンアクセスの推進等とともに、「文献から研究データまでの学術情報全体を統合して検索・抽出が可能なシステム(「知識インフラ」)の展開を図る」とされている。 知識インフラは、科学技術研究活動の実践を根本で支え、科学、技術、学術、文化活動によって生み出される多様なデータ、情報、文献、知識を開放し、それらへの迅速で適切なアクセスを可能にすることで、次の研究、開発、教育、その他の社会的・文化的実践へとつなげる動的サイクルを形成することを目的としている。つまり、情報の生産→流通→アクセス→再生産という知識の循環を促進するネットワーク、プラットフォームとなることを目指すものである。 これにより、組織や個別学術分野を越えた知識の融合を可能とし、学際的な新しい知識やイノベーションの創造を容易にする。 ### 3.2. 近い将来に取り組むべき事項 近い将来に取り組むべき事項として、7つ掲げている。 (ここの内容はスライドを参照。) - 国内学術出版物のデジタル化と電子情報資源の収集 - デジタル化のための環境整備 - 電子情報資源の管理・保存 - 電子情報資源の利活用の促進 - 従来の所蔵資料・サービスと電子情報資源との有機的連携 - 利用情報の解析と利活用 - 知識インフラのノードとしての社会的な機能の展開 ## 4. 知識インフラのノードとしての社会的な機能の展開 知識インフラの課題に対して取り組むべき事項の実現形の1つが、利用者の窓口として想定している「国立国会図書館サーチ(開発版)」(NDL Search)である。 ### 4.1. NDL Searchとは NDL Searchは、当館をはじめ、全国の公共図書館、公文書館、美術館や学術研究機関等が持つ豊富な「知」をご活用いただくためのアクセスポイントとなることを目指している。2010年8月に試行公開し、2012年1月から本格システムとして稼働する。 「当館が保有しているか否かを問わず、冊子体に加えて、デジタル化された画像、テキスト、音声等の様々な形態の情報を、いつでも、どこでも、利用者が求める形で、迅速かつ的確に、アクセスまたは案内できるようにすること」を目的としている。 ### 4.2. NDL Searchが当面目指す方向性 NDL Searchが当面目指す方向性としては、冊子体資料、デジタルコンテンツ、レファレンス情報の3つのシステムが統合されるイメージで、機能としては、全ての情報の統合し、先進的な検索機能を提供し、利用目的に応じてあらかじめ情報を選別できるようにする。また、直接サービスと、APIを利用した間接サービスサービスが提供されることを目指す。 ### 4.3. NDL Searchの将来像 NDL Searchの将来像は、クラウドの世界で各組織体のサービスが連携して利用できるようになることである。コレクション構築、サービスの構築、サービスの提供のどれも、当館単独だけではなし得ず、関係機関の協力と連携が不可欠である。 また、今後のサービストレンドを踏まえたサービスの構築は、関係機関による研究開発、技術開発の成果を活用させていただかなければ、実現が困難である。 コレクション構築においては、2009年7月に国立国会図書館法が改正になり、国・地方自治体、国立大学、独立行政法人等の機関のウェブを収集・保存し提供できるようになったが、それだけでも、すべてを当館だけで保存することは困難である。同種のコレクションを保有する公共図書館、大学図書館を含めて、博物館、美術館、公文書館等の各機関、政府機関、民間、さらに個人が持つ有用な情報が、クラウドの世界でサービス連携して、1つの巨大なデータベースとして利用できるようにすることが必要である。 ### 4.4. NDL Searchのサービスイメージ 2012年1月正式稼働時には、以下のようなサービスを実現する。 - 所蔵機関、情報種別を問わない統合検索機能の提供 所蔵機関、情報種別を問わず、データベースを統合検索(書誌、目次及び全文テキストからの検索)し、同一著作物、同一資料をグルーピング表示する。また、日中韓の国立図書館の統合検索(翻訳検索・翻訳表示)できるようにする。 - コンテンツの閲覧及びナビゲーションを容易にする機能の提供 情報の入手手段へナビゲーション(デジタルコンテンツ、所蔵機関、オンライン書店、近くの図書館へ案内)する。また、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末等、閲覧デバイスに最適化したユーザインタフェースを提供する。 - ユーザビリティを向上させた検索機能の提供 あいまい検索(表記ゆれ、キーワードサジェスト)、絞り込み検索(ファセット検索)及び再検索機能(連想キーワード検索、シソーラス検索、キーワードレコメンド)を可能にする。 - 情報及びサービスの再利用のための機能の提供 納本された新着資料の書誌情報の早期提供(MARC及びDCメタデータ形式)し、また、検索結果のRSS情報の提供、ブックマーク機能、Twitter、書棚サイトへの投稿も容易に行えるようにする。 さらに、外部システムが本サービスを利用するための連携機能の提供(ハーベスト及び横断検索API)を実装する。 ### 4.5. NDL Searchでの連携協力イメージ デジタルネットワーク時代に、利用者に求められるサービスと機能を持ったシステムを構築し提供するためには、外部の機関との連携協力が必須であり、当館は積極的に連携協力を行っていく。その連携の姿勢として、次のような方針を掲げている。 - メタデータの収集または横断検索等による統合検索サービスの提供 外部機関・サービスが提供するコンテンツのメタデータを当該機関・サービスの許諾を得て収集、もしくは横断検索する。 - 外部のウェブサービスとの連携によるサービスの提供(マッシュアップサービス) 外部で提供されている連想検索サービスや機械翻訳サービス等のウェブサービスを有機的に組み合わせて、付加価値の高い検索サービスを実現する。また、外部の情報サービスへの効果的なナビゲーションを実現することにより、利用者の情報探索を支援する。 - 研究開発、技術開発における連携 利便性の高いシステム構築のためには、現状で確立した技術のみでは実現が困難である。大学の研究室、官民の研究機関、ベンチャー企業等による各種の情報技術に係る研究開発を支援するために、当館の情報資源を利用した実用化・実証実験を行うことができるよう、テストベッドの場を提供する。 - コンテンツの統合利用促進のための環境整備 有用なコンテンツを保有しているにもかかわらず、データベースの構築や検索サービスの提供ができない機関に対して、データベースの構築やAPI実装を支援する。 ## 5. 知識の利活用の促進に向けて 利用者の情報探索の目的は、問題・課題の解決であり、回答が掲載された資料の所在ではなく、回答そのものを知識として得ることである。 現在では、多くの利用者がインターネットで閲覧できる情報だけで問題を解決しつつあり、Googleなどの検索エンジンで見えない情報はないも同然と言われている。 こうした情報環境の中で、知識・情報の利活用を促進するためには、紙の形態で流通している資料もデジタル化し、内容をインターネット上で検索・閲覧できるようにする(可視化)ことが必要である。 今後の課題として、従来の単なる情報探索から、事実としての知識検索へ進化させ、知識の再利用による新たな知識の創造が求められている。それを実現するためには、単に資料の内容を可視化して集積するだけでなく、個別の情報に意味的にタグ付け(自動組織化)し、知識として相互に関連付けて(自動集合知化)、利用者が求める知識として、より的確に取り出せるようにすること、また、知識として有効に活用するために、情報の信頼性を確保することが必要である。 「可視化」において翻訳により言語差異を吸収し、また、「組織化」、「集合知化」等において情報の記述要素、記述規則等の差異を吸収することができれば、各機関が持つ知識が意味的に関連を持って利用でき、知識の利活用の促進を目指した「知識インフラ」の構築という目標の達成の一翼を担えると考えている。