# 29.(2015年)国立国会図書館のサービスシステムの歩みと今後の方向性 ―電子図書館事業20年を迎えた新たな方向性の模索― 月報元原稿 2015年1月19日 国立国会図書館 専門調査員 中山正樹 ## 目次 ```table-of-contents title: minLevel: 0 maxLevel: 0 includeLinks: true ``` ## 1. はじめに 2014年は、当館での電子図書館サービスの構築に着手して20年を経過したところであり、今までの歩みを振り返るとともに、デジタル情報化時代が本格化する中で、図書館サービスシステムの今後の方向性についてについて考察します。 ## 2. この20年間の電子図書館構築の歩み 1980年代から、海外の多くの先進的な図書館同様、日本でも電子図書館事業に取り組んできました。1988年、NDLは関西地区に新たな大規模図書館を設置する構想の検討を開始し、1992年、21世紀初頭に関西学術文化研究都市の一角に関西館を設置することとし、具体的な構想を取りまとめました。関西館の予定する機能が、電子図書館的な機能であったこと、また国の産業構造審議会情報産業部会が公共部門の情報化を積極的に進めるべきとの提案を行ったことで、1994年に我が国で最初の大規模な電子図書館の実証実験プロジェクトを実施することとなりました。その後、2002年から本格的なサービスとして離陸し発展させて、現在に至っています。 ### 2.1. 第1ステージ【1994~2002】揺籃期・始動期 NDLは、1994年1月、通商産業省(現:経済産業省)の高度情報化プロジェクト事業の一環で、情報処理振興事業協会(現情報処理推進機構(IPA)と国立国会図書館(NDL)が協力して、パイロット電子図書館プロジェクトを開始しました。パイロット電子図書館プロジェクトの目的は、21世紀の高度情報社会において、地球規模の知的財産を誰でも容易に利用できるように、地球上に広く分散して個々に収集・蓄積されている知的資源を、空間的・時間的制約を越えてアクセス可能とする環境を提供するための実証実験です。国立国会図書館を含む58館の公共図書館が総合目録ネットワーク実験に参加し、約1,400万件の書誌データが蓄積され、また、パイロット電子図書館実証実験では、当館所蔵の貴重書、明治期刊行図書・雑誌、出版社から提供を受けた資料等をデジタル化した約1,000万ページ(CD-ROM約2000枚)のコンテンツを利用して、効率的な検索・利用方法、ユーザインタフェース、電子化データの高度利用、効果的な電子図書館の構築支援の手法等について実証実験を行いました。その成果であるシステム及びデジタル化コンテンツは、その後の電子図書館サービスに引き継がれています。 また、1995年には、先進7カ国首脳会議(G7)の共同研究テーマの一つに電子図書館が取り上げられ、日本がG7電子図書館プロジェクトの共同幹事国をフランスと共管しました。 ### 2.2. 第2ステージ【2002~2012】サービス離陸期・発展期 実証実験の成果を踏まえて、2002年10月に開館された関西館を拠点として、近代デジタルライブラリー、インターネット資源の選択的収集事業(WARP)、各種の電子展示会を公開・提供しました。 2003年には、e-Japan重点計画2003、e-JAPAN戦略Ⅱ加速化パッケージ、(内閣官房IT戦略本部)において、「国のデジタルアーカイブ構想」、「ジャパン・ウェブ・アーカイブ構想」の実現を、また2004年には、e-Japan重点計画2004において「国立デジタル・アーカイブ・ポータル構想」を一層推進することとされました。このような動きを踏まえて、NDLでは、2004年2月に「電子図書館中期計画2004」を策定しました。この中期計画において、デジタルコンテンツを広汎な利用者に提供するために、当館が国のデジタルアーカイブの重要な拠点となるということ、また国内外の多様な利用者層の需要に応じ、日本のデジタル情報全体へのナビゲーションを行う総合サイトを構築し、利用者がワンストップで利用できるようにすることを目指すとされました。 この計画に基づき、2004年10月から、様々なデジタルアーカイブ内の情報を統合検索する仕組みの実用性を検証するために、デジタルアーカイブポータルプロトタイプ(ndldap)を開発・試験公開し、その後、実用システムとして「PORTA」を構築し、2007年10月に正式公開しました。システムは、_Web2.0__時代の__**サービス指向アーキテクチャ(**_**SOA****)を適用し**、仮想OS上でOSSを組み合わせ、国際標準のメタデータ記述要素、記述規則、メタデータ交換の共通APIを利用して、商用を含めた外部サービスと**マッシュアップによるサービス連携**、コンテンツマネジメントシステム(CMS)による機能追加の容易性を確保しました。検索機能として連想検索検索エンジン(GETA)等を利用した**あいまい検索**も実装しました。統合検索対象は、近代デジタルライブラリ、青空文庫、国立公文書館アジア歴史資料センター、NDL-OPAC等の媒体形式か異なるもの、分散所蔵しているもの、**地域情報の情報をまとめているアグリゲータ**としてデジタル岡山大百科等を**ワンストップ**で検索し、コンテンツに辿り着けるようにしました。以降、科学技術振興機構(JST)、国立情報学研究所(NII)をはじめ、全国の個々の図書館や、博物館、美術館、公文書館等の文化機関との連携の拡大を進め、「PORTA」の後継として、国立国会図書館サーチ(NDL サーチ)の開発を進めました。NDLサーチでは、人間文化研究機構、**商用電子書籍ポータル**のhon.jpとの連携等のPORTAが担ってきたデジタル情報のポータルとしての役割を継続するとともに、ゆにかねっとが担ってきた各地の図書館蔵書の総合目録としての役割を引き継いだうえ、NDL-OPAC、インターネット資料収集保存事業(WARP)、国立国会図書館デジタルコレクション、国会会議録検索システム、リサーチ・ナビ(調べ方案内)、レファレンス協同データベース等の当館の主要データベースを統合検索することを可能としています。システムの構築に当たっては、外部専門家の参画、OSSの更なる適用によるコストダウン、次世代技術の試行、共通APIの実装の働きかけによる連携先拡大の加速化、著作単位でのグルーピング表示、キーワードサジェスト、障害者向け機能、日中韓英翻訳機能、パーソナライズ機能、スマートフォン対応を実装しました。また、GUIでの提供だけでなく、収集したメタデータをオープンデータとして、APIで外部システムに提供する「**情報ハブ**」の役割も提供しています。 2010年8月に試験公開、2012年1月のシステムリニューアル時に、新NDL-OPAC等と併せて、正式運用を開始しました。冊子体刊行物の収集・組織化業務及び、蔵書検索・申込システム「NDL-OPAC」を、パッケージに切り替えることによる開発・運用コストの大幅な削減するとともに、デジタル化資料の来館者サービスシステム等、デジタル時代の図書館利用者サービスの基本機能の充実を図ってきました。 また、デジタルアーカイブでは、資料のデジタル化に関しては、2009年5月から大規模なデジタル化が開始され、2011年までに、冊子体としては230万冊、約2億枚の画像をデジタル化しており、また、2010年4月には 国等のウェブサイトの制度的な収集が開始されました。 ### 2.3. 知識インフラの構築を目指して 2010年 に、我が国の第4期科学技術基本計画の策定に向けて決定された「科学技術基本政策策定の基本方針」_(2010年6月総合科学技術会議基本政策専門調査会決定 )_で、「文献から研究データまでの学術情報全体を統合して検索・抽出が可能なシステム(「知識インフラ」)の展開を図る」という方向性が提示されました。これを踏まえて、当館において、2011年に「第三期科学技術情報整備基本計画」を策定し、**国の知識インフラの構築の一翼を担う**こととしました。「知識インフラ」とは、情報資源を統合して検索、抽出することが可能な基盤で、国内の各機関が保有する情報を知識として集約し、新たな知識の創造を促進し、知識の集積・流通・活用と創造するサイクルの構築を目指すものです。 ### 2.4. 東日本大震災アーカイブ 2011年3月には、東日本大震災が発災し、甚大な被害をもたらしました。この被災・復興の記録を後世に残すとともに、今後の防災・減災に役立てるように、**知識インフラの構築の実現形の先行事例**として、2013年3月には、大震災に関するあらゆる記録、記憶を保存し、一元的に検索できるようにする「東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」を構築しました。 ### 2.5. 第3ステージ【2012~2014】総括と再始動期、見直し期 これまで進めてきたサービスの総括と新たな方向性を示す時期です。 また、新たな事業・サービスとして、民間オンライン資料制度収集(2013年7月)、図書館向けデジタル化資料送信サービス(2014年1月)を開始しました。 ## 3. 今後10年で目指すところ(2015年~2024年) ### 3.1. 第4ステージ【2015~2024】本格的なデジタル情報の普及期、サービスの変革期 次のシステムリニューアルが予定される2020年から展開されるサービスの構築に当たっては、今後10年を踏まえて、社会の要請、情報技術の実用化動向を想定した図書館サービスの姿と、その実現に向けて実施すべき事項を明確にする必要があります。 分野を越えた知識インフラの実現形として、あらゆる記録を情報として集約し、相互に関連付けて知識化し、将来にわたって利用を保証するとともに、「社会・経済的な価値を創出」できる「新たな知識の創造と還流」の仕組みを構築することを想定しています。 ### 3.2. 2020年から数年の予測と、国全体での対応 我が国では、「知的財産政策ビジョン」(2013年6月7日知的財産戦略本部)等により、文化資産のデジタルアーカイブ化を推進する政策も含めて、今後10年を見据えた知的財産関連の政府の取組としての目標が掲げられました。政策としては、従来の事業モデルの「改善」だけでなく、事業モデルそのものを創造・転換する「イノベーション」を創出すること、あらゆる分野の知的財産を対象としたビッグデータも含めたクラウド化、オープン化、ユーザが共同でコンテンツを制作するクラウドソーシング、知財人財の育成・確保、コンテンツの権利処理の円滑化、電子書籍の普及促進、データの収集・蓄積・分析による多様な付加価値の創造の研究開発、日本の伝統や文化に根ざした魅力あるコンテンツ・製品などの発掘・創造等の取組が示されています。 ## 4. 国全体の活動の方向性 ### 4.1. アーカイブに関連した国の活動の方向性 「知的財産政策ビジョン」に基づく国の施策の中で、当館に直接関連する計画として、電子書籍化と利活用の促進に関する構想、デジタル文化資産の保存・活用の基盤の整備に関する構想、学術情報の公開と共有の拡充に関する計画、大規模災害の記録と記憶の保存などのアーカイブの構築等が検討され、個々の施策の目的は異なっていても、対象とする文化的資産は相互に関連するものであり、知識インフラを目指した仕組みとして、国全体で_文化関係資料の価値を高め、新たな文化や情報を生み出す_社会基盤として、「恒久保存・継承・公開・活用」が可能な、ナショナルアーカイブとなることが望まれます。「資料・情報を文化資産として収集・保存する」ということは、従来からの出版物に相当する情報の範囲ではなく、美術館、博物館、文書館等が保有する無形・有形の文化財をデジタル化した情報を含め、インターネット上で流通している著作物全てを文化資産としてアーカイブすることです。 文化財のナショナルアーカイブの構築と運用に当たっては、様々な機関において、必要性の認識の共有やアーカイブ立国宣言の提案、制度的な課題解決のために、アーカイブ基本法の法制化、推進体制作りなどが議論されています。また、具体的なサービスシステムの仕組みとして、技術的課題のための研究開発が進んでいます。そのような状況を踏まえて、実現形として国のデジタル文化財のアーカイブとして、実現形のサービスシステムの基盤を想定します。 ### 4.2. 恒久的保存基盤 恒久的保存基盤は、恒久保存と利活用のための共通プラットフォームとして、1つの機関にすべてを集約するのではなく、各分野のアーカイブを集約する拠点が中核となって分散アーカイブを構築し、各機関の情報を相互に持ち合って、障害、災害に備えるとともに、情報のフォーマットのマイグレーションを行うことにより、将来にわたって利用を保証する仕組みです。その分散アーカイブを集合して、あたかも1つのアーカイブとして見えるようにして網羅性、完全性を確保し、個々の情報同士を意味的に関連付けて、情報間のネットワークを構築することを想定します。 このようにネットワーク化された情報に対して、分野を越えて網羅性を保証した検索インターフェースとして、本文の全文検索、あいまい検索、シソーラス検索などを組み合わせた検索で情報を取り出すだけでなく、取り出された情報から芋づる式に関連する情報を取り出せるようにします。 ### 4.3. 知識創造基盤 知識創造基盤は、それぞれの分野の専門家のみならず、広く国民も含めて、様々な分野の網羅的な知識を活用して、新たな著作物を創造する場です。創造活動を支援する基盤として、情報全体の基本情報としてのメタデータを付与する活動、記事、章節項、文節等の単位で組織化・構造化する活動、情報間を意味的に関連付けるための基本情報として、用語辞書、典拠、シソーラス辞書等を作成する活動を想定します。新たな知識を創造する活動は、まず、恒久的保存基盤に格納された網羅的な情報を活用して新たな知識を創作する活動があります。関連付けて利用できる情報の幅が広がるため、より高度な創造性が期待できます。 また、歴史的な文化財や現代文化を映像化、画像化、テキスト化する活動、構造化された情報に解題情報等を付与する活動、情報間を意味的に関連付ける活動、テーマを設定してデジタルギャラリを構築する活動等が含まれます。 _ここで生成された情報は、_新たな知識として恒久的保存基盤に蓄積されていきます。 ### 4.4. 情報発信基盤 _「見るだけのアーカイブ」から「使い、創り、繋がり、伝えるアーカイブ」として、_広く国民による新たな知識の創造、新産業の創出、地域活性化、防災・減災、教育活用、教養・娯楽、観光、国際文化交流等、様々な利用者毎の目的に応じて、恒久的保存基盤に格納された一次情報、コンテンツ創造基盤で創出された二次的情報を有機的に組み合わせて、利用できるようにする基盤です。網羅的な情報から、利用目的に応じてあらかじめ適切に絞り込み、利用者の属性、スキル、利用場所に応じて、様々な画面インターフェースを用意して、利用者が必要とする情報、参考となる関連する情報を容易に得られるようにするもので、レファレンスサービスによる情報探索支援、オンラインレファレンスなども含まれます。 ### 4.5. 運用基盤 _データ保存課題、人材不足問題、資金不足問題、権利処理コスト問題など、デジタルアーカイブの活性化を阻害する課題を制度的に克服する方策(__人材育成策・予算措置・権利処理に関する法改正など)__を導き出し、解決を図っていく中核的な役割を担う推進母体(__司令塔)__としての組織・体制も必要です。この基盤では、ナショナルアーカイブ全体の戦略企画、デジタル情報の保存や利活用のための調査研究、研究開発、デジタル化支援、アーカイブに所蔵された資料に関する知識、読解力とIT__技術の知識等も備えた高度な専門的人材の育成、孤児著作物の権利処理や、絶版作品のデジタルアーカイブ化における所有権、肖像権問題も含めた権利情報DB__の構築を促進する等の役割を持つことを想定します。_ ## 5. 今後のNDLの活動の方向性 NDLは、「私たちの使命・目標2012-2016」の中で、「印刷出版物にとどまらず、電子的に流通する情報を含め、様々な資料・情報を文化的資産として収集し、保存します。」としています。 NDLは、唯一の国立図書館として、国内刊行物の納本制度、公的機関のインターネット資料(ウェブサイト情報)の制度収集、民間のオンライン資料(電子書籍・電子雑誌に相当する情報)の制度収集、保存のためのデジタル化等、法律により「権限」が与えられ、確実な収集・保存・提供の実施の「責任と義務」を負っており、その責任と義務は、可能な範囲で行えばいいということではありません。しかし、物としての紙媒体の出版物については、公共図書館が保有する郷土資料、美術館、博物館、文書館が保有する典籍資料をはじめとして、全てを収集できているわけではなく、また、電子書籍・電子雑誌に相当する情報は、セルフパブリッシングも含めて指数的に増加しており、ウェブサイト全体を丸ごとアーカイブするインターネット資料収集事業(WARP)において、もはや全てを1つの組織で収集・保存すること自体が不可能です。 当館が主体的にアーカイブするとともに他の機関の情報を併せて利活用できるようにしてきた範囲は、人・物・金の資源の制約により「選択的」にならざるを得ませんでしたが、国全体で、文化資産のアーカイブの網羅性を確保できるようにするためには、アーカイブの共通基盤の仕様等を提示し、他の機関に対して、その適用と分担の「協力」を求めることが重要です。 その概念は、パイロット電子図書館実証実験に始まって、電子図書館中期計画2004に基づいて進めてきたアーカイブ構築の考え方そのものです。「ひなぎく」で進めてきたあらゆる記録・記憶を保存する役割の発展系として、ナショナルアーカイブを推進することが、国民の期待に応える活動であり、NDLの使命・目標を達成することとなると思われます。 ## 6. おわりに デジタル情報時代において、出版物は、冊子体から動画・音声等を含むマルチメディア化されたコンテンツへ移行しつつあり、また、冊子体の原資料は文化財として保存するために、デジタル化していくことが求められています。他の文化財の保有機関のデジタル化が進む状況において、文化的資産をあらゆる人々が将来にわたり享受、活用できるようにし、人々の創造的な活用に貢献するためには、社会全体でデジタル情報資源の「見える化」はもとより、より効率的なアクセスの保証に取り組む必要があり、組織を越えたナショナルアーカイブは重要な役割を果たすことになります。産学官のそれぞれの組織は、これらの施策が同一の方向性を持って、相互に資源を補完し合っていく必要があります。NDLは、ナショナルアーカイブの構築、さらに、世界レベルでの「インターナショナルアーカイブ」の構築へと発展することを目指し、その中核的な役割を担っていくべきと考えています。 今後10年のデジタル情報化の進展を見据えて、このようなナショナルアーカイブを利用して知識創造のための情報が入手できる状況において、知識創造を支援する図書館の役割と必要な機能の検討を加速させる必要があると考えます。