# 43.国立国会図書館電子図書館サービスの発展 ~長尾真先生を偲んで~
2022年2月1日
元国立国会図書館 専門調査員・電子情報部長
中山正樹
## 目次
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## 1.はじめに
国立国会図書館(以下、NDL)における電子図書館サービスを発展させた長尾真元館長を語るには、始動期から離陸期までの実質的な推進役であった田屋裕之元副館長を抜きにして語ることはできない。
ここでは、NDLの電子図書館を始動し離陸させた田屋さんと、その事業の発展を加速させた長尾さんの姿勢と、手掛けた施策のうち、公式文書では記されていない主なエピソードにフォーカスして振り返る。
## 2.長尾さんが就任されるまでの電子図書館サービス
### 2.1 電子図書館サービスのはじまり
NDLは、他の多くの先進的な図書館同様、電子技術と情報通信ネットワークが急速に発展し社会的コミュニケーションの枠組みが変わり始めた1980年代から、日本でも資料のデジタル化に向かい合ってきた。
1988年、NDLは歴史的文化遺産の多く残る関西地区に新たな大規模図書館(関西館)を設置する構想を取りまとめた。その構想では関西館は、最先端の技術を十分に活用した情報処理センター機能を有することとした。1992年には、21世紀初頭に関西学術文化研究都市に関西館を設置することとし、「地球規模の知的財産を誰でも容易に利用できるようにする」という目標を掲げた。
#### (1) 電子図書館サービス進展のステージ
田屋さんは、2010年12月に開催されたIFLA共催国際シンポジウム「本を読むという文化―デジタル時代における展開‐創造性とアクセスを育む手段としての著作権‐」の中での講演「日本におけるデジタル化の経験と実践」において、電子図書館の発展を、第1ステージ 揺籃期・始動期【1994~2002】、第2ステージ サービス離陸期【2002~2007】、第3ステージ 発展期【2007~】とした。
その後は、私の実感として、第3ステージ 発展期は、2012年頃までで、第4ステージ 総括による停滞期、見直し期【2012~2014】、第5ステージ サービス普及期、変革期【2015~】と区切られると思っている
### 2.2 第1ステージ 揺籃期・始動期【1994~2002】
関西館は、電子図書館的な機能であったこと、また日本の産業構造審議会情報産業部会が公共部門の情報化を積極的に進めるべきとの提案を行ったことで、新しい動きが開始され、1995年、通商産業省(現:経済産業省、略称METI)は「高度情報化プログラム」 を打ち出し、公的分野の一つとして図書館の情報化の推進を取り上げることとなった。社会資本としての総合的な情報提供が重要であり、関西館が情報発信を行う図書館としての基本理念をもつところから、1996年、NDLとMETIは電子図書館の実現に向けて共同して研究することとし、執行はIPAが担うこととなった。
長尾さんが京都大学において、「ネットワーク環境における情報と文献の利用のための高度検索システム(Ariadne)」(京都大学)を構築したほぼ同時期に、NDLでは、田屋さんが推進役となって、「パイロット電子図書館プロジェクト」として、総合目録ネットワークプロジェクト、電子図書館実証実験プロジェクトを実施した。
このプロジェクトの目的は、21世紀の高度情報社会において、地球規模の知的財産を誰でも容易に利用できるように、広く分散して個々に収集・蓄積されている知的資源を、空間的・時間的制約を越えてアクセス可能とする環境を提供するというもので、その成果であるシステム及びデジタル化コンテンツは、その後の電子図書館サービスに引き継がれ、NDLの電子図書館事業に多大な影響をもたらした。
また、1995年には、先進7カ国首脳会議(G7)の共同研究テーマの一つに電子図書館が取り上げられ、日本がG7電子図書館プロジェクトの共同幹事国をフランスと共管した。実証実験の成果と、電子図書館推進会議による検討を踏まえ、1998年5月に「国立国会図書館電子図書館構想」 を策定され、それ以降の国立国会図書館の電子図書館構築の骨格が記された。
### 2.3 第2ステージ サービス離陸期【2002~2007】
#### (1) サービスの離陸
実証実験の成果を踏まえて、2002年10月に開館した関西館を拠点として、近代デジタルライブラリー、インターネット資源選択的蓄積実験事業(WARP)、各種の電子展示会を公開・提供し、実用化システムとして電子図書館サービスが離陸した。
#### (2) 国の動き
国の取り組みとしては、e-Japan重点計画―2003、e-Japan戦略Ⅱ加速化パッケージ(内閣官房IT戦略本部)策定の議論の中で、「国のデジタルアーカイブ構想」、「ジャパン・ウェブ・アーカイブ構想」の実現を、またe-Japan重点計画2004策定時には「国立デジタル・アーカイブ・ポータル構想」を一層推進することとされた。
NDLの基本的な姿勢は、単館主義で、政府との連携も前向きでなかったが、電子図書館事業を国の戦略に組み込んでいただくために、内閣官房とともに原案を作成したものである。
#### (3) 国立国会図書館電子図書館中期計画2004
NDLでは、2004年2月に「国立国会図書館電子図書館中期計画2004」(以下、「中期計画2004」)を策定し、デジタルコンテンツを広汎な利用者に提供するために、①NDLが国のデジタルアーカイブの重要な拠点となるということ、②レファレンス情報等に到達するための仕組みの充実、更に、③国内外の多様な利用者層の需要に応じ、NDLが保有していない情報資源を含めて、利用者がワンストップで利用できるようにするポータルを構築することを目指すとした。
「中期計画2004」」で明示した取組みは、国の高度情報通信ネットワーク社会推進本部(IT戦略本部)への働きかけにより、e-Japan戦略等の取組としても掲げられ、関係府省の協力のもと、デジタルアーカイブ構築事業として推進する形となった。
中期計画2004、e-Japan戦略等の取組を拠り所に、デジタルアーカイブの構築と併せて、日本のデジタル情報全体へのナビゲーションを行うポータルの構築を進めることとして、このステージにおいて、プロトタイプの試験公開と、各機関のデジタルアーカイブ構築のインキュベータとしての役割を持つPORTAの開発を進め、2007年に正式公開することができた。
![[Fig01_Ndl2004_Image.jpg]]
## 3.長尾さんによって加速された電子図書館サービス
### 3.1 第3ステージ 発展期【2007~】
2007年、長尾さんが就任され、NDLがこれまでの電子図書館の実績に基づき、さらに加速し飛躍した時期である。
その方向性として、国内においては館種を問わない全国の図書館との連携の強化と、博物館や文書館などの文化機関との連携が強化され、また、海外に対しては東アジアの日中韓3カ国を初めとするアジア諸国との連携の強化や、世界各国とのグローバルな協力が推進された。
#### 3.1.1 就任時の挨拶の中で、「不易流行の実践を」
就任時の挨拶は、NDLの広範な課題に関して、
①日本の知的資産を網羅的に集め、保存し、活用し、将来の日本のために役立てるためのものであるという崇高な使命がある。
②国会に対しての目線とともに、国民、社会一般に対しても同じ目線を向けるべきである。
③第一に直接来館して利用していただく場合ですが、これは立地上からも非常に限られます。したがって全国に存在する公共図書館、あるいは大学図書館・その他図書館との連携を、これまで以上に密にする必要がある。
④不特定多数の人が情報や知識の発信者であり、また受信者であるという時代。また多くの情報プロバイダーが商業ベースで、あるいは無料で情報サービスをするという時代。
⑤国立国会図書館が全ての電子的情報、特にオンライン情報を網羅的に収集することには非常な困難。様々な情報 の収集について、立法府、行政府といったことにこだわらず、たとえばJST、NII、大学、その他と協調して、重複を省きながら全体として出来るだけ完全な収集をする努力。
⑥さらにこれまで以上に世界各国の国立図書館と積極的に相互協力をし、世界中の情報を誰もが活用できるようにすることが大切。
具体策を例示したものであり、退任まで、貫かれた姿勢の原点でもあった。
#### 3.1.2 2007年就任直後の館内各部署への「指示」
就任直後の館内各部署のヒアリング後に、就任時の挨拶を更に具体的した「指示」があった。特に、ここでは、電子図書館システムの開発手法、機能について紹介する。
##### (1) 電子図書館システム全般の開発姿勢に関して
業務システム最適化は、下記のような事項に留意して開発すべきであるとの考えを示めされた。
①既存の各部課の取り扱う情報資源やソフトウエアシステムの枠をこえて、情報資源、ソフトウエア全体についての最適化を目指すべき(情報システム資源が“館全体として最適配分される”のでなく、“館全体として最適に統合化される”べきである)。
②各部課で取り扱う情報資源をそれぞれ独立で考えるのではなく、出来るだけ1つのデータベースに統合し、それらを共有し、増強していくようにすべきである(関係部課が多く、データ量も多い基盤システムの設計においてはこれをよく検討する)
③各部課で必要とする機能を、統合的立場から、上手く有機的に連携した形でシステムを作るようにする。(パッケージの活用)
④業務システムの最適化計画”は早急にたて、可能な限り前倒しとなる対応(特にデータベース共有、外部情報資源の積極的利用について検討すべき)
⑤新しいシステムを設計するような場合、システムのあり方、内容等について、利用者や学識経験者などの意見を広く聞く場を設け、多様な観点から議論してもらって、できるだけ良いものとする努力が必要だろう。
⑥RFIの作成、システム作成における入札のための詳細スペックなど、内部の担当者で作りにくい部分については、外部の適当な機関(入札に関係しない技術力のある企業等)を活用
⑦電子情報を扱う組織等とよく協議し、重複や無駄を省き、相互に協力する努力。一般利用者は当館を経由して先方のデータベースにアクセスさせるとか。
⑧最後の拠り所、ラストリゾート。NII、大学図書館、アマゾン、グーグルなどと組んで、それらの図書、雑誌検索にかからない場合に、自動的にNDL-OPACのほうに来るようにリンクを付けるなどの工夫。
⑨外部人材の活用。
##### (2) 電子図書館関連システムの機能に関して
①OPAC等の検索は完全一致検索だけでなく、種々の工夫をしたあいまい検索が出来ることが必要ではないか
②2NDLC、NDLSH、典拠DBなどは広く各種図書館に無償で公開し、ダウンロードして加工して使うことを許可する
③事例の文章表現をもっと抽象度の高いものにするかしなければ使いものにならない
#### 3.1.3 2008年、長尾ビジョン(国立国会図書館60周年を迎えるに当たって)
長尾さん就任1年後の2008年、「知識は我らを豊かにする」を理念とした「長尾ビジョン」が発表された。この目標の多くの実現は、電子図書館に委ねられるものであると感じていた。
長尾ビジョンを拠り所に、電子図書館サービスの各種実施計画書を策定し、サービス要件として、具体的なサービスを提供するかをリストアップして実施してきた。
目標:①国会に対するサービスはより密なものとし、シンクタンク的に活動する。②日本の知的資産の網羅的収集(紙ベースおよび電子情報)を行う。③収集物への迅速で適格なアクセスを可能にする。④利用者がどこにいても来館者と同様のサービスが受けられるようにする。⑤社会に対する多様なサービスを可能にする。⑥公共図書館をはじめとする各種の図書館とのより密接な連携を行う。こうして社会に対する間接的サービスを強化する。⑦海外の図書館とのより密接な連携を行い、情報の共有・交換への努力をする。⑧人材育成と職場環境のさらなる改善
#### 3.1.4 次世代図書館を目指したサービスのリニューアル
長尾さん就任2年の2009年初頭に、館の情報化の推進とコスト削減を前提とした基盤システムの開発方針の見直しを含めた、「トータルな図書館システムの実現」のイメージ案の提示を求められた。当館及び他の図書館の紙資料、デジタル資料を一体的に管理し、全国書誌の作成、統合検索システムの提供により、国全体のアーカイブへのアクセスの保証をイメージしたものである。
これは、「骨」だけになっていた中期計画2004に、「身」を付け戻した「次世代図書館サービス」の構築実施計画であり、「基盤システムのリニューアル」と一体で、実施することになった。
長尾さんの退任直前の2012年1月にリニューアルオープンした国立国会図書館サービスシステムの基本的な形は、「電子図書館中期計画2004」の実現形であり、印刷刊行物等の物理的な資料の収集整理と閲覧提供を管理する業務基盤システム、電子情報を統合的に収集保存するデジタルアーカイブシステム(DAシステム)、NDLおよび他の機関が保有する印刷刊行物、電子情報等を一元的に検索・ナビゲートする国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)等で構成する。
見直しに当たっては、長尾さん、田屋さんが、異例の担当レベルの業者との打合せに参加し、直接意見を述べ、両名のタッグによる強力なバックアップにより進められた。
##### (1) デジタルアーカイブポータルのプロトタイプから、知識情報探索サービスへ
NDLサーチは、国立国会図書館所蔵資料と他機関所蔵資料の区分だけでなく、来館者、非来館者の区分をも一挙に乗り越え、Googleのように1つの窓で、全てを検索できるようにするものであったが、図書館職員、来館利用者の間では否定的な考えを持つ人が多いのが現実であった。
もともと、NDLサーチは様々なアーカイブを一元的に利用できるようにするためのものであり、メタデータ収集のためのAPIと利用局面毎のユーザに特化した検索サービス用の画面(GUI)のために検索用APIを提供し、児童書OPACと同様に、NDL-OPACもその1つとして位置付けたが、そのコンセプトは十分に伝わらなかったようである。
#### 3.1.5 デジタル化における連携・協力
NDLは、率先してデジタル化を進め、日本での最大規模のデジタルアーカイブを構築しているとは言え、日本においては積極的なデジタル化を行っている機関が他に複数ある。
##### (1) 長尾構想
2008年、「長尾構想」とは、第三者が管理するサーバーにNDLのデジタル化された資料を置き、利用者が一定の料金を支払って閲覧し、料金は最終的には著作権者に支払われると言うもので、著作権が存続する出版物の配信に一歩踏み込んだ提案であった。
#### 3.1.6 知識インフラの構築を目指して
2010年に、長尾さんは、総合科学技術会議基本政策専門調査会において、知識インフラの必要性、知の共有化の仕組み、持続可能な社会の構築を訴えた。「知識インフラ」とは、情報資源を統合して検索、抽出することが可能な基盤で、国内の各機関が保有する情報を意味的に関連づけて知識として集約し、新たな知識の創造を促進し、知識の集積・流通・活用と創造のサイクル構築を目指すものある。
我が国の第4期科学技術基本計画の策定に向けて決定された「科学技術基本政策策定の基本方針」で、「文献から研究データまでの学術情報全体を統合して検索・抽出が可能なシステム(「知識インフラ」)の展開を図る」という方向性が提示されました。これを踏まえて、NDLにおいて、2011年に「第三期科学技術情報整備基本計画」において、国の知識インフラの構築の一翼を担うことを内外に示した。
![[Fig02_KB_Model.png]]
##### (1) 「東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」
2011年3月に東日本大震災が発災し、大震災に関連するあらゆる記録を後世に残すため、関係府省、各種震災関連情報の保有機関と協力して分担収集・保存し、一元的に検索・閲覧できる仕組みとして、「東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」を構築することとなった。
構築に当たっては、長尾さんの指揮のもと、記録の保存と提供のハブとしてNDLが中核的な役割を果たすこととして、持続可能性と知識インフラへの発展を強く意識し、将来的な必要なフレームワークと次世代技術を積極的に適用することとした。これは、NDLサーチの従来の枠を越えてあらゆる情報資源への到達を目指す知識インフラ構築のステップとして位置付け、長尾さん退館1年後、大震災発災の2年後の2012年3月に公開された。
#### 3.1.7電子情報部の発足
2011年10月、電子情報部は、総務部から独立して、旧情報システム課が母体となって体制が強化されて、デジタル関係、情報システムの企画・立案・実施・運用を一元的に遂行する組織として発足した。
NDL内において、長年の懸案であり、電子図書館サービスの位置づけが大きく転換したイベントである。電子情報部の発足においては、多くの課題・懸案があり、長尾さん、田屋さんの強い意志により進められたことを思い出される。「電子情報部発足にあたっての長尾館長のおことば」今でも大切に保管している。リニューアル、次期システム、外部の力を借りてスキルアップ、次世代システム開発研究室、制度化、システム開発論の再教育等、網羅的な課題への対応姿勢が示された。更に「次期基盤システムリリースで初期トラブルがあっても『責任は全て私が負う』からのびのびとやりなさい」との言葉は忘れない。
### 3.2 退館される際に残されたメッセージと記録
これまで述べた通り、長尾さんの言葉は、概念的な内容にとどまらず、具体的な実現方法に関しても意見、時には強く指示された。長尾さんの活動記録には、第1部では成果、第2部では職員に向けた38個のメッセージが綴られている。
常に、5年10年先を見据えた施策であり、様々な提案は、無謀な提案だったとは思っていない。姿勢を見直せば、実施可能な提案であり、実現すべき提案であった。
長尾さんの活動成果は、多岐にわたるが、電子図書館関係の記録だけでも、下記のテーマが記されている。(※公式の表現とは異なるところがあるが、敢えて長尾さんの表現で記す。)
- 資料の網羅的収集として、
- 資料への迅速なアクセスとして、
- 遠隔サービスの実現では、
- 海外の図書館との連携・協力として
- 組織・施設の改善として
### 3.3「未来の図書館を作るとは」
#### (1) 「未来の図書館」の概念
2012年3月にNDLを退任される際に、職員に配布されたもので、のちにEPUB文書として発行されている。
1995年に刊行された「電子図書館」で示された知識の概念から、これまでに現実になったこと、今後実現されていくべき事項と方向性が網羅的に綴られている。締めの言葉として、「現実世界の本や情報の大切さ以上にヴァーチュアルな世界における情報処理と表現力の可能性にもっと大きな関心を持つべき時代に来ていると言えるのではないだろうか」は、従来の図書館の枠を越えた役割を果たすべきと示唆している。
#### (2) 「未来の図書館を作るとは」(長尾真)より抜粋
- 「人間の持っている知識は頭脳の中にあり、種々の知識が何らかの関係性によってつながれていて、連想的に関係する知識が取りだされている」
- 「図書館においてもぼう大な書物の中に存在する知識が関連性をもって書物という単位を超えてつなげられ、それが取り出されることが大切であろう
- 「本のある部分に存在する単語や概念を集め、それらに近い単語や概念が存在する部分を他の本について網羅的に調べる
- 関連する知識を人間頭脳の中のネットワークのようにつないで、利用者の要求に応じて提示できるような形の電子図書館の内容の組織化が望まれているのである。
- 電子図書館における図書・資料は部品に解体され、それぞれが種々の観点からリンク付けされた巨大なネットワーク構造が作られるようにする。これは1つの社会で共有する中立的な知識構造、知識システムである
- 個人によって違った知識の構造の部分については、その人の力によって種々の検索方式を試み、自分の必要とする情報をとり出して中立的な知識の構造に付加してゆくことが出来ねばならないし、またそれによって自分に合った知識の構造を作りあげてゆくことができるだろう
- 現実世界の本や情報の大切さ以上にヴァーチュアルな世界における情報処理と表現力の可能性にもっと大きな関心を持つべき時代に来ていると言えるのではないだろうか
#### (3)「書物の本文の組織化」と情報図書館学
2010年に田屋副館長の指示のもと「電子書籍の標準化の調査」を日本電子出版協会(通称JEPA)に委託し、今後の電子書籍の標準フォーマットとしてEPUBの有用性を認識した。
文書が構造化されるXHTMLで記述され、章節項、文節等の単位でタグ付けされたEPUBリフロー版は、「書物を徹底的に解体、利用者が好きなところだけを取り出して利用できるようにする」が容易である。
図書館情報学による文献の書誌データ(メタデータ)とともに、構造化された本文を含めて、情報図書館学により体系化し、AIの学習データとし、辞書の精度を上げることにより、よりより的確な知識を構築することができる。本文は、テキストに限らず、画像、音声、動画を含むものも同様である。
情報全体の基本情報として文献の章節項、文節等の単位でタグ付けされていれば、情報を正しく体系化して、適切に取り出すことが容易になる。
長尾さんが、1994年に提唱、Ariadneで実証し、度々熱く語っていた情報の体系化の実現の1つのステップであった。
#### (4) 「未来の図書館を作るには」の実現
「電子図書館」(1994年長尾真著)では、「既存の図書や資料をデジタル化すればそれで電子図書館が実現するかといえばそうではない。あるべき姿はデジタル化された情報を縦横に使いこなし、まったく新しい知的空間を創造するための図書館である。」とされており、「Ariadne」はその理念に基づいた実用化実証実験システムであった。
「未来の図書館を作るには」が発行された2012年初めは、まだ第3次人AIブームの前で、AIはまだブレークスルーしていなかった。しかし、2012年以降のAIにおける機械学習はディープラーニング手法等により飛躍的に進展し、また、アーカイブ機関での資料のデジタル化、デジタルコンテンツのオープンデータ化、LOD化の加速化により、AIが扱える質の高いビッグデータが揃いつつある状況で、「未来の図書館を作るには」の中で「未来」と示唆されていた相当な範囲の仕組みが、今後5年程度で実用化を見通せるようになった。
今後、ビッグデータとして活用が期待される情報として、アーカイブ機関のデジタルアーカイブ内で保有している一次情報があり、オープンデータ化されていない情報も含めて、全文テキストを活用した検索インデックスの作成をはじめ、AIの学習データとして活用するサービスが認められる方向である。
既にインターネット上に広範な情報が公開されているが、ここ数年で、文化機関、公的機関が保有している情報もオープンデータ化が進みつつあり、ビッグデータとして利活用できる方向に向かっている。このような時代に、従来の業務やサービスは、AIが組み込まれたシステムやロボットに支援されてサービスが省力化され、さらにビッグデータとして網羅性が確保されることにより、「知の共有化」が可能な新たなサービスが生まれようとしている。
## 4.長尾さんの退館後の電子図書館サービス
### 4.1 第4ステージ 総括による停滞期、見直し期【2012~2014】
長尾さんの退任後、リニューアル総括および今後の構想の議論において、伝統的な図書館業務の延長線で電子図書館を捉える姿勢が垣間見え、図書館がデジタルをメインに据えなければ、存立意義が危ぶまれる危機感の認識も含めて、当時、国全体の「知識インフラ」の実現形としてのデジタル文化財のナショナルアーカイブ構想の館内議論が進まなく、実現への道筋のコンセンサスが得られなかった。
そのような中でも、2013年の「出版社の権利のあり方に関する提言」(印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会)、日本の文化情報戦略基盤「国立デジタル文化資産振興センター(仮称)」設置構想提言(デジタル文化資産推進議連)において、長尾さんの助言のもと、ナショナルアーカイブの機能とOne of ThemとしてのNDLの役割を示す「我が国の知識インフラとしてのナショナルアーカイブ構想(案)」を作成し、長尾さんの助言のもと、国全体の「知識インフラ」の実現形としてのイメージを提示した。
### 4.2 第5ステージ サービス普及期、変革期【2015~】
その後は、「アーカイブに関するタスクフォース報告書」(知的財産戦略本部検証・評価・企画委員会)、知的財産戦略調査会の提言とりまとめ(2014年5月27日自由民主党知的財産戦略調査会)等を経て、知的財産推進計画2014の「アーカイブの利活用促進に向けた整備の加速化」において、国の事業として、国としてのデジタルアーカイブの構築・連携を位置付けられ、各府省の協力のもとNDLが中核的な役割を果たすこととされた。2020年には国の分野横断型統合ポータルサイト「ジャパンサーチ」が公開され、新たなステップへと発展している。
長尾さんが提唱し、「未来の図書館と作るとは」で示された「知識インフラ」の構築に向けて大きな一歩を踏み出している。
## おわりに
長尾さんは、あらゆる面において、先見の眼で、常に5~10年先のあるべき姿を示唆してくれた。時として早すぎるために、内外において軋轢をもたらすこともあったが、その言葉通りに、世の中は進んでいるように見える。
長尾さんの活動成果、メッセージ、教訓は数多く残されており、それぞれのトピックでのエピソードが想い出される。紙面の都合上、私の心の中で特に想いのあるトピックにフォーカスした。記すことができなかったトピックは別途記録として残すこととする。
私は、IPAに在籍中の1995年から、NDLから出向していた田屋さんとパイロット電子図書館プロジェクトに関わり、2002年からNDLにおいて電子図書館事業、情報システム関連事業に従事し、NDLの電子図書館の激動の時期を経て、2015年に退職した。
長尾さんは、生涯で最も尊敬する上司であった。事あるごとに館長室に呼ばれ、システムの要素技術の実装方式にまで踏み込んだ意見交換や時に厳しく指導を受けたことが想い出される。実施に当たって強力な支援のもと業務遂行できたことを深く感謝している。
長尾さん、田屋さんとともに、電子図書館関連で、NDLとの連携に尽力いただいた青空文庫の富田倫生さん、国立公文書館の牟田昌平さんを始め、道半ばで亡くなられた方々にも、この場を借りて改めて感謝と哀悼の意を表します。
## 註・参考文献
[1]中山正樹. 国のデジタル・アーカイブ・ポータルの構築 : 国立国会図書館「電子図書館中期計画2004」の実施に向けて. 2004. 情報の科学と技術 vol.54, no.9, p.453-460. [https://doi.org/10.18919/jkg.54.9_453](https://doi.org/10.18919/jkg.54.9_453) (参照 2022-1-25)
[2]和中幹雄. 国立国会図書館 -2009年から2017年6月まで-. 情報の科学と技術. 2018, 70(1), 110-124. [https://doi.org/10.20628/toshokankai.70.1_110](https://doi.org/10.20628/toshokankai.70.1_110) (参照 2022-1-12)
[3]長尾真. 国立国会図書館2007-2011年度活動記録. 2011.
[4]長尾真, 未来の図書館を作るとは.長尾真, 2012, 27p
[5]中山正樹. AI を活用した「知の共有化」システムの方向性―「未来の図書館を作るとは」の実現に向けて―. 同志社図書館情報学. 2017, (27), 42-58. [https://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016828](https://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016828) (参照 2022-1-12)
[6]中山正樹. 未来の図書館の実現に向けて―「知の共有化」を目指した活動記録―. 中山正樹. [https://BlueMoon55.github.io/Repository/bibi-bookshelf/Sharing_Knowlege.epub](https://bluemoon55.github.io/Repository/bibi-bookshelf/Sharing_Knowlege.epub) (参照 2022-1-22)