# 44.国立国会図書館電子図書館サービスの発展 ~長尾真先生を偲んで~【寄稿版】
2022年2月1日
元国立国会図書館 専門調査員・電子情報部長
中山正樹
## 目次
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# 1.はじめに
国立国会図書館(略称NDL)の電子図書館サービスは、始動期から離陸期までの実質的な推進役であった田屋裕之元副館長、さらにトップダウンで加速させた長尾真元館長により、推進されてきた。両名が推進してきた施策のうち、公式文書ではあまり記されていないエピソードにフォーカスして振り返る。
# 2.長尾さんが就任されるまでの電子図書館サービス
## 2.1 電子図書館サービスのはじまり
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NDLは、他の多くの先進的な図書館同様、電子技術と情報通信ネットワークが急速に発展し社会的コミュニケーションの枠組みが変わり始めた1980年代から、日本でも資料のデジタル化に向かい合ってきた。 1992年には、「地球規模の知的財産を誰でも容易に利用できるようにする」という目標を掲げた。
## 2.2 第1ステージ 揺籃期・始動期【1994~2002】
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1996年、NDLと通商産業省(現:経済産業省、略称METI)は電子図書館の実現に向けて共同して研究することとし、執行は(現:情報処理振興機構、略称IPA)が担うこととなった。 田屋さんが推進役となって、「パイロット電子図書館プロジェクト」を実施した。このプロジェクトの目的は、広く分散して個々に収集・蓄積されている知的資源を、空間的・時間的制約を越えてアクセス可能とする環境を提供するというものである。
## 2.3 第2ステージ サービス離陸期【2002~2007】
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実証実験の成果は、その後の電子図書館サービスに引き継がれて離陸し、その後のNDLの事業に多大な影響をもたらした。サービスが離陸した。
### (1) 国立国会図書館電子図書館中期計画2004
NDLでは、2004年2月に「国立国会図書館電子図書館中期計画2004」(以下、「中期計画2004」)[1]を策定した。 中期計画2004、e-Japan戦略等の取組を拠り所に、デジタルアーカイブの構築と併せて、日本のデジタル情報全体へのナビゲーションを行うポータルの構築を進めることとして、このステージにおいて、プロトタイプの試験公開と、各機関のデジタルアーカイブ構築のインキュベータとしての役割を持つPORTAの開発を進め、2007年に正式公開することができた。
![[Fig01_Ndl2004_Image.jpg]]
図1 電子図書館中期計画2004の実現イメージ
# 3.長尾先生によって加速された電子図書館サービス
## 3.1 第3ステージ 発展期【2007~】
2007年、長尾さんが就任され、NDLがこれまでの電子図書館の実績に基づき、さらに加速し飛躍した[2]。
### 3.1.1 就任時の挨拶の中で、「不易流行の実践を」
就任時の職員に向けた挨拶は、NDLの広範な課題に関して、「不易流行の実践」を求めるものであった。 就任時にも関わらず、内容は、具体策にまで踏み込んだものであり、その内容の骨子は、2008年、長尾ビジョン(国立国会図書館60周年を迎えるに当たって)で明文化され、退任まで貫かれた姿勢の原点であった。
### 3.1.2 2007年就任直後の館内各部署への「指示」
就任直後の館内各部署のヒアリング後に、電子図書館システムの開発手法、機能については、更に実施手順にまでブレークダウンされた「指示」があった。
#### (1) 電子図書館システム全般の開発姿勢に関して
業務システム最適化は、①既存の枠をこえて“館全体として最適に統合化される”べき、②のデータベースは統合し、それらを共有し、増強していくようにすべき、 ③パッケージの活用、④業務システムの最適化計画により、特にデータベース共有、外部情報資源の積極的利用について検討すべき、⑥RFIの作成などは、外部の機関を活用、⑦重複や無駄を省き、相互に協力する努力。⑧最後の拠り所、ラストリゾート。⑨外部人材の活用。
#### (2) 電子図書館関連システムの機能に関して
①OPAC等の検索は完全一致検索だけでなく、種々の工夫をしたあいまい検索が出来ることが必要ではないか、 ②典拠DBなどは広く各種図書館に無償で公開し、ダウンロードして加工して使うことを許可する、③レファレンス事例の文章表現をもっと抽象度の高いものにする。
### 3.1.3 次世代図書館を目指したサービスのリニューアル
長尾さん就任2年の2009年初頭に、館の情報化の推進とコスト削減を前提とした基盤システムの開発方針の見直しを含めた、「トータルな図書館システムの実現」のイメージ案の提示を求められた。当館及び他の図書館の紙資料、デジタル資料を一体的に管理し、国全体のアーカイブへのアクセスの保証をイメージしたものである。 これは、「基盤システムのリニューアル」と一体で、実施することになり、長尾さん、田屋さんのタッグによる強力な指揮により進められた。長尾さんの退任直前の2012年1月にリニューアルオープンした。
#### (1) デジタルアーカイブポータルのプロトタイプから、知識情報探索サービスへ
NDLサーチは、国立国会図書館所蔵資料と他機関所蔵資料の区分だけでなく、来館者、非来館者の区分をも一挙に乗り越え、Googleのように1つの窓で、全てを検索できるようにするものであったが、図書館職員、来館利用者の間では否定的な意見を持つ人が多いのが現実であった。 もともと、NDLサーチは様々なアーカイブを一元的に利用できるようにするためのものであり、メタデータ収集のためのAPIと、利用局面毎のユーザに特化した検索サービス用の画面(GUI)のためのAPIを提供し、APIを活用した専用のGUIである児童書OPACと同様に、NDLが保有する資料のみを検索するNDL-OPACもその1つとして位置付けたが、そのコンセプトは十分に伝わらなかったようである。
### 3.1.4 知識インフラの構築を目指して
2010年に、長尾さんは、総合科学技術会議基本政策専門調査会において、知識インフラの必要性、知の共有化の仕組み、持続可能な社会の構築を訴えた。 「科学技術基本政策策定の基本方針」において、「文献から研究データまでの学術情報全体を統合して検索・抽出が可能なシステム(「知識インフラ」)の展開を図る」という方向性が提示された。これを踏まえて、NDLにおいて、2011年に国の知識インフラの構築の一翼を担うことを内外に示した。
![[Fig02_KB_Model.png]]
図2 知識情報基盤の構築モデル
#### (1) 「東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」
2011年3月に東日本大震災が発災し、大震災に関連するあらゆる記録を後世に残すため、関係府省、各種震災関連情報の保有機関と協力して分担収集・保存し、一元的に検索・閲覧できる仕組みとして、「東日本大震災アーカイブ(ひなぎく)」を構築することとなった。 構築に当たっては、長尾さんの指揮のもと、記録の保存と提供のハブとしてNDLが中核的な役割を果たすことした。従来の枠を越えてあらゆる情報資源への到達を目指す知識インフラ構築のステップとして位置付け長尾さん退館1年後、大震災発災の2年後の2012年3月に公開された。
#### (2)電子情報部の発足
2011年10月、電子情報部は、デジタル関係、情報システムの企画・立案・実施・運用を一元的に遂行する組織として発足した。NDL内において、長年の懸案であり、電子図書館サービスの位置づけが大きく転換したイベントである。電子情報部の発足においては、多くの課題・懸案があったが、長尾さん、田屋さんの強い意志により進められた。 「電子情報部発足にあたっての長尾館長のおことば」の中の「次期基盤システムリリースで初期トラブルがあっても『責任は全て私が負う』からのびのびとやりなさい」との言葉は忘れない。
3.2 退館される際に残されたメッセージと記録
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長尾さんの活動記録[3]には、第1部では成果、第2部では職員に向けた38回のメッセージが綴られている。 短期間に矢継ぎ早に、無理難題とも思われる様々なメッセージが発せられたが、これを拠り所に、強力なバックアップの下で電子図書館事業が推進されたのも事実である。 長尾さんの活動成果は、電子図書館関係の記録だけでも多岐にわたるが、「未来の図書館を作るとは」で述べられている「理想の図書館へ向けて」のステップだったと感じている。
## 3.3 「未来の図書館を作るとは」[4]
### (1) 「未来の図書館」の概念
2012年3月にNDLを退任される際に、職員に配布されたもので、のちにEPUB文書として発行されている。 1995年に刊行された「電子図書館」で示された知識の概念から、これまでに現実になったこと、今後実現されていくべき事項と方向性が網羅的に綴られている。締めの言葉として、「現実世界の本や情報の大切さ以上にヴァーチュアルな世界における情報処理と表現力の可能性にもっと大きな関心を持つべき時代に来ていると言えるのではないだろうか」は、従来の図書館の枠を越えた役割を果たすべきと示唆している。
### (2)「書物の本文の組織化」と情報図書館学
2010年に田屋さんの指示のもと「電子書籍の標準化の調査」を日本電子出版協会(略称JEPA)に委託し、今後の電子書籍の標準フォーマットとしてEPUBの有用性を認識し、EPUBの普及の一役を担った。 EPUBは、文書をXHTML等で記述され、章節項、文節等の単位でタグ付けされた構造化テキストであり、長尾さんの言う「書物を徹底的に解体、利用者が好きなところだけを取り出して利用できるようにする」ことが容易になる。 図書館情報学による文献の書誌データ(メタデータ)とともに、構造化された本文テキストを含めて、情報図書館学によりシステム的に体系化し、より
より的確な知識を構築することができる。 長尾さんが、度々熱く語っていた「情報の体系化」の実現の1つのステップであったと振り返る。
### (3)「未来の図書館を作るには」の実現
「未来の図書館を作るには」が発行された2012年初めは、まだ第3次人AIブームの前で、AIはまだブレークスルーしていなかった。しかし、2012年以降のAIにおける機械学習はディープラーニング手法等により飛躍的に進展し、また、アーカイブ機関での資料のデジタル化、デジタルコンテンツのオープンデータ化の加速化により、AIが扱える質の高いビッグデータが揃いつつある状況で、「未来の図書館を作るには」の中で「未来」と示唆されていた多くの仕組みが、今後5年程度で実用化を見通せるようになっている[5]。
# 4.長尾先生の退任後の電子図書館サービス
## 4.1 第4ステージ 総括による停滞期、見直し期【2012~2014】
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長尾さんの退任後、リニューアル総括および今後の構想の議論において、伝統的な図書館業務の延長線で電子図書館を捉える姿勢が垣間見え、図書館がデジタルをメインに据えなければ、存立意義が危ぶまれる危機感の認識も含めて、コンセンサスが十分に得られない状況であった。 そのような中でも、国の「知的財産政策ビジョン」(2013年)、「電子書籍化と利活用の促進に関する構想」、「デジタル文化資産の保存・活用の基盤の整備に関する構想」等において、外部の有識者の立場での長尾さんの助言のもと、ナショナルアーカイブの機能とOne
of ThemとしてのNDLの役割を示す「我が国の知識インフラとしてのナショナルアーカイブ構想(案)」を提示し、「知識インフラ」の実現に向けた活動は継続した。
## 4.2 第5ステージ サービス普及期、飛躍期【2015~】
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その後の電子図書館の発展は、私も退館した後であり、詳細の紹介は現職員に委ねるが、関係者の強い意志と大変な努力の積み重ねにより、国の事業として、国としてのデジタルアーカイブの構築・連携を位置付けられ、各府省の協力のもと、2020年には「ジャパンサーチ」が公開された。「未来の図書館と作るとは」で示された「知識インフラ」の構築に向けて大きな一歩を踏み出している。
# 5.おわりに
長尾さんは、あらゆる面において、先見の眼で、常に5~10年先のあるべき姿を示唆してくれた。時として早すぎるために、内外において軋轢をもたらすこともあったが、その言葉通りに、世の中は進んでいるように見える。 長尾さんの活動成果、メッセージ、教訓は数多く残されており、それぞれのトピックでのエピソードが想い出される。紙面の都合上、私の心の中で特に想いのあるトピックにフォーカスしたが、記すことができなかったトピックは別途記録として残すこととする[6]。 私は、IPAに在籍中の1995年から、NDLから出向していた田屋さんとパイロット電子図書館プロジェクトに関わり、2002年からNDLにおいて電子図書館事業、情報システム関連事業に従事し、NDLの電子図書館の激動の時期を経て、2015年に退職した。
長尾さんは、生涯で最も尊敬する上司であった。事あるごとに館長室に呼ばれ、システムの要素技術の実装方式にまで踏み込んだ意見交換や時に厳しく指導を受けたことが想い出される。実施に当たって強力な支援のもと業務遂行できたことを深く感謝している。 最後に、長尾さん、田屋さんとともに、電子図書館関連で、NDLとの連携に尽力いただいた青空文庫の富田倫生さん、国立公文書館の牟田昌平さんを始め、道半ばで亡くなられた方々にも、この場を借りて、改めて感謝と哀悼の意を表します。
# 註・参考文献
- [1]中山正樹. 国のデジタル・アーカイブ・ポータルの構築 : 国立国会図書館「電子図書館中期計画2004」の実施に向けて. 情報の科学と技術, 2004, vol.54, no.9, p.453-460. [https://doi.org/10.18919/jkg.54.9_453](https://doi.org/10.18919/jkg.54.9_453)
- [2]和中幹雄. 国立国会図書館 -2009年から2017年6月まで-. 情報の科学と技術 . 2018,vol.70, no.1,p.110-124. [https://doi.org/10.20628/toshokankai.70.1_110](https://doi.org/10.20628/toshokankai.70.1_110)
- [3] 長尾真. 国立国会図書館2007-2011年度活動記録. 2011.
- [4]長尾真, 未来の図書館を作るとは.長尾真, 2012, 27p
- [5]中山正樹. AI を活用した「知の共有化」システムの方向性―「未来の図書館を作るとは」の実現に向けて―. 同志社図書館情報学. 2017, (27), 42-58. [https://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016828](https://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016828)
- [6]中山正樹. 未来の図書館の実現に向けて―「知の共有化」を目指した活動記録―. 中山正樹. [https://BlueMoon55.github.io/Repository/bibi-bookshelf/Sharing_Knowlege.epub](https://bluemoon55.github.io/Repository/bibi-bookshelf/Sharing_Knowlege.epub) (参照 2022-01-22).